アンティークにまつわる逸話やアンティークへの思い、ためになる知識などアンティークに関する様々なお話を毎回ご紹介していきます。

Vol.010 (ギャラリーコテツ)
アフタヌーンティーと英国銀器
Vol.011 (Antiques Violetta)
麗しのアンティークジュエリー
 
Vol.007 (ギャラリー チューリップ)
アンティーク絨毯・キリムの購入のヒント
Vol.008 (Angel Collection)
アンティークレースの世界 ポワンドガーズ
Vol.009 (塩川コレクション)
北欧のアール・ヌーヴォー ビング&グレンダール
Vol.004 (Antique Teardrop)
ジョサイア・ウェッジウッド に思いを馳せて
Vol.005 (Angel Collection)
貴婦人の楽しみ ソーインググッズ
Vol.006 (Indoor decoration UNO)
家具入手の秘訣とは?
Vol.001 (ギャラリーコテツ)
紅茶の歴史と英国銀器
Vol.002 (CopperMold)
フランスの麻のドレスとモノグラム刺繍
Vol.003 (古美術太田)
元染付壺が32億円で落札!



アール・ヌーヴォーといえば日本ではガラスのガレやドームが有名ですが、釉技における磁器のアール・ヌーヴォーといいますと、釉下彩(アンダーグレイズ)による彩色磁器と結晶釉(クリスタルグレイズ)の磁器を指します。これは、この2つの近代的釉技が、ちょうど19世紀末にロイヤル・コペンハーゲンで研究開発され、その絵付けに当時流行していたアール・ヌーヴォー様式を形成する一要因となったジャポニズムを取り入れ、西洋諸国に広まったためと考えられます。実際、この時期に行われた1889年と1900年のパリ万国博覧会で、いずれもロイヤル・コペンハーゲンが釉下彩の作品でグランプリを獲得しています。

そして、この2回のパリ万国博覧会で、ロイヤル・コペンハーゲンと人気を二分したもうひとつの窯が、実は同じデンマークのビング&グレンダールです。この窯は、1987年にロイヤル・コペンハーゲンと吸収合併したので、日本ではあまり知られていませんが、19世紀末から20世紀初めにおいて、欧米で人気を博した窯でした。
ビング&グレンダールは、1853年にフレデリック・グレンダ−ル(1856年にすでに死去、元ロイヤル・コペンハーゲンの彫塑製作者)とメイヤー・ヘルマン・ビング(1807-1883)とヤコブ・ヘルマン・ビング(1811-1896)の兄弟によって創設されました。さらに、1883年、ヤコブ・ヘルマン・ビングの2人の息子、ルートビッヒ・カール・ビング(1847-1885)とハラルド・ヤコブ・ビング(1848-1924)が経営を引き継ぎましたが、兄のルートビッヒ・カール・ビングが1885年に亡くなりましたので、実質的にはハラルド・ヤコブ・ビングが経営を引き継ぐことになりました。

ハラルドは、1886年に王立劇場の画家兼衣装係であったピエトロ・クローン(1840-1905、B&G在籍は1885-1890)を芸術主任として招請します。ピエトロ・クローンは、東洋陶磁器に関する知識をもとに釉下彩の手法を作品に用い、そのフォルムのデザインに日本の芸術様式を参考にして自然的なモチィーフを取り入れました。写真1は、ピエトロ・クローンの代表作である「鷺のサービス」のセンターピースです。鷺は昔から日本の工芸デザインに用いられた鳥です。1887年に制作されたこれらのオリジナル作品は、ブルーのアンダーグレイズに金彩で作られています。この「鷺のサービス」は、1888年にコペンハーゲンで行われたスカンジナビア展覧会と、1889年のパリ万国博覧会において、ビング&グレンダールの展示コーナーの中心に置かれました。

写真1

写真2

写真3
また、1900年のパリ万国博覧会では、シンプルでおとなしい造形デザインのロイヤル・コペンハーゲンの作品に対してビング&グロンダールの作品は、唸るような曲線や渦巻き模様などの独特な装飾が施されたエネルギッシュな造形およびレリーフ、そして透かし彫りなどが用いられ、人物・動物・植物のモチィーフが数多く描かれました。写真2はピエトロ・クローンの弟子のひとりであるエフィー・ハーマン・リンデンクローン(1860-1945、B&G在籍は1886-1942)の作品です。また、写真3は、やはりピエトロ・クローンのもうひとりの弟子ファニー・ガード(1855-1928、B&G在籍は1886-1928)の作品です。

このような彫塑的な要素を持った作品を制作することは、「ロイヤル・コペンハーゲンと異なった路線で作品を作り出す。」という経営者ハラルド・ヤコブ・ビングの方針でもありました。事実、ビング&グレンダールは当時のデンマークの彫刻家を多く採用しています。
一般的に、北欧におけるアール・ヌーヴォー磁器は、ロイヤル・コペンハーゲンが絵画的要素、ビング&グレンダールが彫塑的要素を作品の前面に打ち出すのが特徴で、スウェーデンのロストランドが両方の要素を取り入れた窯として見ることが出来ます。


今回のVol.9 コラム 「北欧のアール・ヌーヴォー ビング&グレンダール」 は、
陶磁器コレクターの塩川さんに寄稿していただきました。
http://home.h00.itscom.net/shiokawa/


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