アンティークにまつわる逸話やアンティークへの思い、ためになる知識などアンティークに関する様々なお話を毎回ご紹介していきます。

Vol.010 (ギャラリーコテツ)
アフタヌーンティーと英国銀器
Vol.011 (Antiques Violetta)
麗しのアンティークジュエリー
 
Vol.007 (ギャラリー チューリップ)
アンティーク絨毯・キリムの購入のヒント
Vol.008 (Angel Collection)
アンティークレースの世界 ポワンドガーズ
Vol.009 (塩川コレクション)
北欧のアール・ヌーヴォー ビング&グレンダール
Vol.004 (Antique Teardrop)
ジョサイア・ウェッジウッド に思いを馳せて
Vol.005 (Angel Collection)
貴婦人の楽しみ ソーインググッズ
Vol.006 (Indoor decoration UNO)
家具入手の秘訣とは?
Vol.001 (ギャラリーコテツ)
紅茶の歴史と英国銀器
Vol.002 (CopperMold)
フランスの麻のドレスとモノグラム刺繍
Vol.003 (古美術太田)
元染付壺が32億円で落札!


英国の紅茶を語るとき、貴族たちから広まった華やかな歴史がたくさん語られております。 その中でも貴族の社交の場であったティーセレモニーとしてのアフタヌーンティー、さらに現代においても、 それを継承する格式あるホテルでのアフターヌーンティー、しかし英国人と紅茶との深い心のかかわりは ティーセレモニー以上の奥深い精神的な拠りどころが潜んでいるのでは?と感じることがあります。 さらに、人生の豊かな時間の過ごし方として、イギリスの歴史の中では紅茶との関係が色いろな逸話として 語られています。 それでは、まず始めにその中のひとつ「アフタヌーンティーの始まりとは?」をご紹介して参ります。

アフタヌーンティーの発祥の地、ベッドフォード地方一帯を治める英国名門貴族、第七代ベッドフォード公爵夫人から始まると伝えられるアフタヌーンティーの始まり、それはどんな始まりだったのでしょう。 逸話とされる文献からご案内申し上げます。


2006年英国ベストオブティープレイスに選ばれたクラリッジス・ティーラウンジでのアフタヌーンティー。

18歳にてヴィクトリア女王が即位した時代、年長の公爵夫人は貴婦人の中でもひときわ尊敬される立場にありました。上流貴族文化が最も華やかな時代でしたが、まだまだ厳格な作法や道徳観が重んじられる時代でした。イギリスの食生活はと申しますと、とても朝早い朝食、そして軽いお昼をいただいた後は、お肉料理を用いる晩餐となり、夜の8時からスタートして、陽の長い夏には9時から始まるという、なんとも遅いお夕食でした。当時、公爵夫人の館に貴婦人が集まる目的は、年上の既婚者が若い未婚のカップルを見守り、結婚までのデートの見張り役を努めたり、また唯一エスコート無しで貴婦人達が出かけられる場でもありました。しかし、健全で作法を重んじる集まりは面白味がなく、その間は一滴たりともお水も飲まず、まして食べ物を 口にすることなど出来ない習慣でした。

ところが、あまりの空腹にガマンが出来ず、頭痛と眩暈を理由に公爵夫人は寝室に下がってしまいます。 当時の貴婦人はウエストにキュッときつくコルセットを締め、すっと伸びた背筋を保っておりましたが、その状態でもお腹が鳴ってしまうのです。顔色の悪い公爵夫人に、メイドが心配をしながら「お医者様をお呼びしましょう」と問いかけますと、公爵夫人は 「温かい紅茶とバターを塗ったパンを持ってきて」と命じるではありませんか。 しかも、運ばれてきた紅茶とサンドイッチを口にするや、先ほどまでの頭痛も青白い顔色もすっかり元通りになり、この原因は飲まず食わずの状態で過ごした空腹感であったことに気が付きます。

英国ウィンザー城近郊、王侯貴族が代々当主をつとめ、現在は一般に宿泊できるマナーハウス“クリヴデン”の ライブラリーにてアフタヌーンティー。

暖炉のぬくもりの中、緑の庭園を眺め自然光に包まれながらお茶の時間を楽しむ事が出来ます。

その後、体調不良を理由に来客を断わり、夕方ちかくになるとメイドに運ばせる紅茶とバター付きのパンを 公爵夫人は一人寝室で楽しむことを日課にしました。 しかし、いつまでも来客をお断りするわけにもいかず「一人で空腹を凌ぐのも味気ないわ」と思うようになります。 それでは貴婦人方をお呼びする時に、ちょっとつまめるサンドイッチやケーキなどを綺麗に盛り付けしてお出し すれば、客間でおもてなしするにも品良く出来るはずというアイデアが浮かんできました。
そこで、公爵夫人はお客様を招く時には、ティーパーティーでもてなすことを実行してみます。 すると、招かれた貴婦人達も、本来何も食べない時間に食べ物と飲み物が出ることに、少々ためらいながらも、 公爵夫人のすすめにより、綺麗に並べられたサンドイッチやケーキをいただき、ほとんどお皿には何も残りません でした。 しかも、いつも以上におしゃべりが弾み、「次回もこのようなティーパーティーを楽しみたい」と、貴婦人達の反響も とても良い感じです。 さらに夕方に紅茶やお菓子をいただくことにより、胃腸を刺激し消化吸収が促され、その後の晩餐がとても美味しく感じられたのです。

やがてベッドフォード公爵夫人がウォバーン・アビーの館で催すティーパーティーの噂が宮廷関係者から上流 階級に広まり、真似をする貴婦人達があらわれました。 しかもヴィクトリア女王陛下からも、そのティーセレモニーを楽しんでみたいとのお申し入れがあり、公爵夫人が ご紹介したという謂われのあるウォバーン・アビーのお部屋が、今も大切に残されています。宮殿においてもベッドフォード公爵夫人自らアフタヌーンティーを取り仕切るために出かけ、英国の社交マナーに新しい習慣を付け加えたのです。

はじめは貴族階級に広まったアフタヌーンティーというティーセレモニーの習慣が、英国の産業革命後の国力の発展に伴い、英国民全体に行き渡る習慣になっていきます。もちろん、紅茶を楽しむ習慣から英国銀器のティーサービスセットを持つのが夢となり、それぞれの家に代々伝わる家宝のように、紅茶のしつらいに必要な英国銀器の発展がうながされていきます。
さらに英国銀器が紅茶の味を美味しく楽しめる道具として、無くてはならないものになっていくのです。もちろん、英国のゆとりある生活スタイルの中で、切り離す事の出来ない紅茶との関りがあったからこそ、現代に至っても生活の中の宝物のようなアフタヌーンティー・タイムとなったのです。人生のなかで大切な人とのお茶の時間は本当に心温まる大事な時間です。その大事なお茶の時間を輝かせて くれるのが英国銀器たちなのです。

今回のVol.10 コラム 「アフタヌーンティーと英国銀器」は、ギャラリー虎徹 さんに寄稿していただきました。 http://www.g-kotetsu.com


アンティークコラム INDEX
Vol.010 (ギャラリーコテツ)
アフタヌーンティーと英国銀器
Vol.011 (Antiques Violetta)
麗しのアンティークジュエリー
 
Vol.007 (ギャラリー チューリップ)
アンティーク絨毯・キリムの購入のヒント
Vol.008 (Angel Collection)
アンティークレースの世界 ポワンドガーズ
Vol.009 (塩川コレクション)
北欧のアール・ヌーヴォー ビング&グレンダール
Vol.004 (Antique Teardrop)
ジョサイア・ウェッジウッド に思いを馳せて
Vol.005 (Angel Collection)
貴婦人の楽しみ ソーインググッズ
Vol.006 (Indoor decoration UNO)
家具入手の秘訣とは?
Vol.001 (ギャラリーコテツ)
紅茶の歴史と英国銀器
Vol.002 (CopperMold)
フランスの麻のドレスとモノグラム刺繍
Vol.003 (古美術太田)
元染付壺が32億円で落札!